MUSIC HACKではテーマを決めて音源を聴き比べてちょっとした解説をしたり感想を言い合ったりする『鑑賞会』を行っています。
漠然と聴いている音楽も聴きどころが変わると印象も変わり、音楽をより楽しめるようになります!
過去に行われた鑑賞会の一部を記事にしていきます。
こちらは第一回ですが、聴き比べからアメリカンビンテージのサックスやビッグバンドにおけるバリトンサックスの役割の話などにも発展し、楽しく有意義な回になりました!
菊地講師と悟講師、そしてMUSIC HACK受講者の参加者3名で行われました。
ジョニー・ホッジス Johnny Hodges
デュークエリントン楽団で長期に渡りリードアルトを務めました。ベニー・カーター、ウィリー・スミスと並び三大アルトサックスと言われています。リーダー作も多いです。
マーシャル・ロイヤル Marshall Royal
こちらはカウントベイシー楽団で長期に渡りリードアルトを務めました。リーダー作は少なく、ホッジスと比べると知名度は落ちますがビッグバンド好きにファンが多いです。
比較した動画
duke ellington johnny hodges all of me
Count Basie “Young and Beautiful”
2つの動画を参加者に聴いていただき、感想を伺いました。
皆さんの感想
Aさんの感想「ジョニー・ホッジスの強弱がカッコ良いです」
Aさん「ジョニー・ホッジスの方は強弱が凄く付いてて、ゴーストノートが上手く使われてる感じがかっこいい!それでいて盛り上げるところでインパクトのある音がバーっと出てきて、ビブラートもかけて、でも他のところではあまりかけてないので、ここが一番の見せ所だというのが伝わりました。」
Aさん「マーシャル・ロイヤルの方は、全体的にキレイな音で、全体的にビブラートもかかっていて、歌ってる感じで吹いてる印象です。グルーヴというより、伴奏のリズムに合わせるのでなく、伴奏のリズムはありつつ自分の歌を吹いてますよっていう感じが伝わりました。強弱もあり、歌の盛り上げ方が凄い。あと凄かったのが、アコースティックのギターの音が聞こえてくること!それから最後のカデンツァも細かい音がひとつひとつキレイに聞こえてよかったです。」
Bさんの感想「チームだな…!」
Bさん「二人とも、上手い!と思いました笑」
Bさん「ジョニー・ホッジスは音色と音量とスピードの緩急があってよかった。あと、個人的にベンドアップは嫌らしくて好きじゃないと思っていたけど、これは上品で良かった。」
Bさん「マーシャル・ロイヤルは…僕最近ビブラートの練習を始めて注意して聴くようにしているのですが、ビブラートがキレイだなっていうのと、バンドの他の楽器と同じようなビブラートだったので、チームだな…!と思いました。」
Cさんの感想「どうやってこの音を出しているんだろう」
Cさん「最後だと感想が被りますね笑」
Cさん「二人目のマーシャル・ロイヤルさんはまろやかな響きの演奏の感じだと思いました。一人目のジョニー・ホッジスさんは凄く印象的で、最後の方に凄く太いんだけどシャープな音色を出していて、どうやってこの音を出しているんだろうと思いました。あと、こうやってみんなで音楽聴くのいいなあって思いました笑」
悟講師「いいですね!」
菊地講師「やった甲斐があります笑」
菊地講師の感想 対照的な表現、対照的な奏法
菊地講師「皆さんのおっしゃる通りというか、僕が気付かなかったところまで聴いていらっしゃって凄いですね!僕はサックスの奏法などに耳が行ってしまいまして。」
菊地講師「ジョニー・ホッジスは基本サブトーンっぽく吹いていて、ここぞというところでワー!っと吹く感じですね。ビブラートもここぞというところですね。そこ以外はクールに吹いてますね。そんなジョニー・ホッジスの抑揚の付け方が僕は大好きです。そして浅めに咥えてるような印象ですね。あとほとんどの音でタンギングしてますね。そこもいわゆるスウィングのセオリー(裏タンギングなど)とは違うところで、セオリーを超えて自分の表現をしている感じも魅力です。」
菊地講師「マーシャル・ロイヤルは対照的だと思います。ジョニー・ホッジスは基本クールなのに対して、マーシャル・ロイヤルは常に情熱的な印象です。あと音色がジョニー・ホッジスはサブトーン主体なのに対して、マーシャル・ロイヤルはパリッとというか、かなりはっきりしてますね。このパリッとした感じはおそらくやや深めに咥えないと出ないと思います。なので、基本的にやや深めに咥えてるんだろうなと思います。基本の音色も大きめだと思います。」
ジョニー・ホッジスの使用楽器 アメリカンビンテージ ブッシャーのサックスの特徴や遊び心
菊地講師「それからこれは豆知識ですが、ジョニー・ホッジスはブッシャーというメーカーの今はアメリカンビンテージとして扱われてる楽器を使っています。悟講師はブッシャーの楽器を吹いたことはありますか?」
悟講師「僕はブッシャーのバリトンを持っています。アメリカンビンテージは軽めのものが多く、ブッシャーは特に管体が厚くなく軽めです。プッと吹くとポンと鳴る印象です。僕の持っているバリトンはテナーくらいの抵抗感で吹けます。ショートベルというタイプで、現行楽器のようにLOW Aが付いてなくて、B♭までしか出ません。」
Aさん「ジョニー・ホッジスはサブトーン主体の音色だけどグルーヴが出ている感じでしたね。」
菊地講師「そう、決してリズムが緩いわけではないんですね。ずっと3連符のフィールがありましたね。」
菊地講師「アメリカンビンテージの楽器は、サックスの形が本格的に決まるちょっと前に作られているので、独自の構造があったりして面白いです。僕が持っているブッシャーのアルトには、GとA♭のトリル専用みたいなキーが付いています笑」
悟講師「ちなみにマーシャル・ロイヤルは何のメーカーの楽器を使っていましたか?」
マーシャル・ロイヤルの使用楽器はコーン
菊地講師「マーシャル・ロイヤルはコーンというメーカーの楽器を使っています。これもアメリカンビンテージと呼ばれるものです。チャーリー・パーカーも使っていたメーカーです。」
Bさん「コーンもアメリカンビンテージなので軽いんですか?」
菊地講師「そうです。ただしアメリカンビンテージだから軽いというわけではなく、僕はあまり詳しくないのですがより頑丈でそこまで軽くない楽器もあったと思います。」
エリントンとベイシー スウィングフィールやバンドの個性の違い
悟講師「先ほどグルーヴの話が出たのでその話をすると、デュークエリントンは3連符に近いスウィングフィールで、カウントベイシーは付点8分音符と16分音符に近いスウィングフィールです。スウィングの深さが違います。」
悟講師「それからバンドの特徴をお話すると、デュークエリントンは個を立たせるバンドで、その人をフィーチャーする為にアレンジされてる曲が多く、また同じ曲でも色々なアレンジがあります。カウントベイシーはバンドサウンドを立たせるバンドで、ひとつの曲にひとつのアレンジが基本です。またギターのフレディ・グリーンが音量を決めているとも言われていて、バンド全体がアコースティックギターの生音が消えない音量で演奏する決まりがあったようです。」
ビッグバンドにおけるバリトンサックスの音量と立ち位置
Aさん「あと、聴き比べとは違うのですが、以前はサードアルトをやっていて、最近バリトンに転向しました。サードアルトのときはリードアルトに寄り添うように吹いていましたが、バリトンになるとリードアルトと動きが違うので、立ち位置というか、音量バランスとかがいまいちわかりません。音が低いので周りの音に消されてしまいます。」
悟講師「バリトンの役割として、ひとつはサックスセクションの屋台骨、2つ目はビッグバンド全体の低音を担うこと、3つ目はバストロンボーンなどの低音パートと同じ動きをすること。この3つの組み合わせです。」
悟講師「たとえばリードアルトのオクターブ下で同じことを吹いているようなときは、リードアルトと同じくらいの音量を出しても大丈夫です。バリトンが大きく吹くことでリードアルトが際立ちます。なので吹きすぎてバリトンだけうるさいようなことはほとんど起こりません。」
Aさん「そうなんですね!サックスセクションでハーモニーのバッキングをする場面で、バリトンがルートの音を出していたので、譜面通りp(ピアノ)で吹いていたら、コード感がわからないからからもっと吹いて、と言われました。f(フォルテ)くらいで吹いたら、そのくらい!と言われました。」
悟講師「良い質問です!譜面の音量記号はバンド全体の音量を表していて、その楽器の音量を表しているわけではない場合が多いです。バリトンサックスは音が低いので他の楽器より大きいくらいが丁度いいバランスになることが多いです。」
Aさん「謎が解けました!ありがとうございます!」
菊地「そろそろ終わりにしましょうか。」
菊地「ありがとうございました!」